厚生労働省の調査によると、習慣的な喫煙者は20歳以上の男性で40%を切り、20歳以上の男女全体で25%を下回ったそうだ。ちなみに、外国と比較するとヨーロッパやアメリカは男女の差が比較的小さいが、15歳以上の男性の喫煙率は15〜30%以下のようだ。アメリカが男女とも20%以下というのは、想像していたよりずっと低い。室内禁煙の所が多いせいか、建物の出入り口にたむろして吸っている人を頻繁に見かけるので、どうもリッチな白人とそれ以外では様子が大きく異なるような印象を持っている。日本よりずっとポイ捨てする喫煙者が多いし、喫煙者=レベルの低い人間、というイメージがあったりするのかもしれない。
ところで、私は、40年来の喫煙者。数年前から、本社オフィスの机では吸わないルールにしたので本数は半減したけど、1日20本くらい。
それにしても、昨今、愛煙家はますます肩身が狭い。
全席禁煙のレストランにはまず行けない。だからスターバックスも敬遠している。あそこではくつろげない。
何より、海外に行くときの長時間の飛行機は苦痛で、カナダで泊まった全室禁煙のホテルでは氷点下のベランダで震えながら吸ったものだ。シンガポールでは、喫煙者もそこそこ見かけたが、屋外でも吸えるところは限られているので、気ままな散歩の途中「ちょっと一服」という楽しみが味わいにくい。
加えて最近困るのは、社外での打ち合わせや会議。
少し早めに着くようにして、外で一服してから訪ねるのだが、1時間を超えるとつらくなってくる。長くなる時は「喫煙室はありませんか」と聞いて、「ちょっと小休止しましょう」と言うこともある。
どれも20年くらい前には考えられなかったことだ。机にも会議室のテーブルにも灰皿があって、吸い放題だった。映画館で「煙が邪魔でスクリーン見えにくいよ」と腹を立てたことさえあった。
ちなみに、ずっと以前に禁煙した父は「人にとやかく言うことじゃない」と何も言わないけれど、息子たちは、一緒にいて吸うと煙たがるし、訪ねていくと換気扇の下やベランダに行かされる。
もちろん、タバコは肺がんになる危険性を高めるし、体によいことは何もない。それに、まわりの人たちにも受動喫煙によって悪い影響を与えるから、自分勝手な振る舞い、ということになる。
喫煙を自己弁護できる理屈はどこにもないし、吸わない人に「体に良くないよ、迷惑だよ」と言われると返す言葉がない。そこが、つらさを倍増させる。
と、ここまで来れば、 もう禁煙しないのが不思議なくらいだが、今のところ、私にその気はまったくない。
中毒なのだから、吸わないことで大きくなるストレスを引き受けるのがイヤだからだ。
「人間、不健康になる自由もあるでしょ」とうそぶいている。
いえ、これは冗談ではなく、信念みたいなものでもある。ここが、重要。
前置きはこれくらいにして、ここからが本題。「旅籠屋」におけるタバコの話し。
最近、「禁煙室希望」「禁煙室をもっと増やして」と言われることが少なくない。「健康増進法を遵守しているのか?」というメールをいただいたこともある。
その時に返した回答は以下の通り。
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・・・「●●店」では、2室およびラウンジを禁煙室とする予定でございます。自販機コーナーやコインランドリーは外廊下に面した半屋外のため、
とくに制限を設けませんが、外部に数箇所灰皿を設け、喫煙をこれらの場所に誘導する予定にしております。
ラウンジの禁煙措置や喫煙場所への誘導などはすべての店舗で数年前より実施しており、禁煙室につきましてもすでに数店舗で試験的に行っておりますが、近々、全店に禁煙室を設定する予定にしております。
弊社では、「シンプルで自由な旅をサポートする」ことを設立以来のポリシーとしており、出来る限り制約を設けず、多様な方々に自由にご利用いただくことを目指してまいりました。「受動喫煙」による健康への悪影響はまた別の次元の問題だというご意見があることも承知しておりますが、結果として、喫煙者に「不自由を強いる」面があることも否定できず、禁煙室の設定ではなく換気の徹底などで対応する方針を採ってまいりました。また、こうしたことは「努力事項」とは
いえ、本来法律で縛るべきことではないという考えもございます。しかしながら、どうしても、室内に匂いの残る場合があり、非喫煙者の割合も過半を超えてお客様から要望の多いこともあり、「健康増進法」や「世論」や「他の宿泊施設の状況」とは関係なく導入に踏み切った次第でございます。
以上、不十分な対応とのご批判を甘受しつつ、禁煙室の増室につきましては状況を見ながら進めていく所存でございます・・・・
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宿泊施設の場合、音や匂いは「泊まり心地」に大きな影響を与える。
以前、アメリカのMOTELを泊まり歩いたとき、葉巻や香水や汗臭い匂いが気になったことが何回もあるが、たしかに気分は良くない。だから、タバコを吸わない人が、その残り香に神経質になるのも、よくわかる。
「旅籠屋」の場合、「沼田店」を除いて、ほぼ全室2方向に窓があるから、換気には都合が良い。朝、お客様がチェックアウトしたら先ず行うのは、窓を開けて外気を通すこと。
それでも、匂いが残ることもある。
タバコばかりが問題視されるけれど、じつはキムチの匂いはもっと深刻。強い香水の匂いが充満して困ることもある。
支配人はけっして、こうしたことに無頓着でも放置しているのでもない。換気はもちろん、ベッドカバーを天日干ししたり、使っていないシーツを含め、すべてのリネンを洗濯に出したり、消臭剤や脱臭機を使って手間をかけて努めていることも理解して欲しい。もちろん、満室にならない限り、こうした部屋を使うことはない。
しかし、しかしである。
語弊を恐れず言わせていただくが、一部の人たちからの「ヒステリックな非難」には、寛容さを求めたい。
不特定多数の人が宿泊するのだから、「前の晩、どんな人が、どのように泊まったかわからない」 のが当然なのだ。
あまり神経質になられても、自分の都合ばかりを言われても、対応には限界があることを理解して欲しいのだ。
子供や幼児は、騒いだり夜鳴きしたりする可能性があるけれど、制約なくお泊りいただいている。
いつも家族同様に暮らしているペットも、 一定のルールやマナーという条件をつけて、自然に受け入れてきた。
車椅子の方、養護施設の子供たち、基本的にどんな人でも受け入れる。
社内のマニュアルにはこう書いている。
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・・・さまざまなお客様がいらっしゃいます。外見などの印象が悪くても、汚さず、騒がず、気持ちよくお泊りいただける方もあれば、その逆の場合もあります。同じ方でも、ご家族での利用の時は問題なかったのに、会社の同僚との宿泊の時は傍若無人だったということもあります。予断・偏見・先入観でお客様を「判定」し、失礼な対応をとらないようにしてください。
年齢の離れたカップル、不自然な家族、滞在目的の不明なひとり客、どうみても高校生以下にしか見えないカップルなど、不可解に思えるお客様もいらっしゃいますが、それはこちらの予断であり、プライバシーに属することですから、我々が関知すべきことではありません。実際に周囲に迷惑をかける可能性を確信できない限り、等しく通常のお客様です。
お役所的な発想では「疑わしきは事前に排除する」となりますが、それはトラブル発生の予防や対応の責任を放棄していることで、その結果、利用者の多様性や自由を損ねてしまうことになります。「旅籠屋」は「自由な旅をサポートする」宿です。そうした「自由」を守るために、お客様が引き起こすかもしれないトラブルを予防したり解決したりすることに要する手間とリスクを引き受けているのだという意識を持っていてください。おおげさに聞こえるかもしれませんが、私がアメリカのモーテルで感じた「日本に欠けているもの」のひとつはそうした「自由と責任」の意識です。我々も組織や肩書きを離れた時、軽んじられたり、詮索されたりして不愉快で情けない思いをさせられることがあります。社会的にマイノリティの立場にある人を、いわれなく差別したり区別したりすべきではありません。逆の立場になって、失礼な態度をとってしまうことのないよう気をつけてください。「旅籠屋」が大切にすべき精神は、こうした点にあります。
なお、泥酔状態などで正気を失っている方、著しく不潔で異臭を放っているような方など、明らかに施設を汚損したり、他のお客様に迷惑をかけることが確実である場合は、断固として宿泊を拒否することができますが、これは例外中の例外と考えてください・・・
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ペットも泊まれるなんて、非常識。ペットアレルギーの人もいるかもしれないのに。
なんで多数の非喫煙者がそんなに追いやられなければならないのか理解できない。
私がアメリカを泊まり歩いた時、部屋の匂いが気になったり、店の人の態度に腹が立ったりした時に思ったのは、良くも悪くもこれがMOTELだということ。外国だし、自分の都合を言っても始まらない。いやなら高いHOTELに泊まれば良いのであり(とはいえ、高いからサービスや気配りが行き届いているなんて保証はどこにもないのが普通)、自分自身で総合的に判断して選択していけばよいのだ、ということだった。そして、私には、それでも気楽なMOTELが性に合った。自己責任による判断、それは日本国内でもある程度は言えることではないかと思う。
自己弁護のために言っているのではない。 「旅籠屋」がアメリカの安MOTELのようで良いとは思わない。
ただ、「旅籠屋」は万人のためのものだが、万人受けするつもりは初めから無い。
「自由であり、多様性を受け入れる」ということは、そういうことだと思っている。
・・・とはいえ、「禁煙室」は、遠からず全店に設置し、少しずつ部屋数を増やしていくことになると思います。
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